長距離ドライブ

Aさんをつれて山形の芋煮会へ行く事になりました。芋煮会は山形県や福島県などで秋に行われる行事で昔は収穫祭として行われていたものだそうです。秋になるとあちらこちらの河原で薪を燃やしている煙が立ち上り秋が深まり初雪が降る直前まで賑わいます。鍋の中身はその土地によりより微妙に変わりますが、山形風では里芋と牛肉それにちぎったコンニャクが入り、米沢風ではさらにお豆腐を入れ日本酒と醤油で味付けします。

河原の開放感の中気のあった仲間達で味あう芋煮とお酒は最高の味です。その芋煮会へぜひAさんにも味わっていただこうとお誘いしたところ是非にという事で1泊の長距離ドライブが実現しました。

お誘いしておきながら実は心配事が沢山ありました。

片道約300Kmの長時間ドライブ。
車での移動が中心になりますが、

いままで市内や県内ドライブは何度か経験して居ましたのでなるようになると言うわけで、早朝4時にご自宅お迎えにあがりました。初秋いえども早朝の空気と多少の緊張で寒い!車椅子も積み込んでお母様のお見送りで、まだ暗い中旅はスタートしました。

常磐自動車道の柏インターから一路山形へ。 途中ですっかり明るくなった頃パーキングで休憩。パーキングでは車椅子マークがある駐車場へ止めました。

この時はオートバイも不心得な車も止まっていなかったのですが、何となく自分の車がそこに止まっている事自体が違和感があります。何故ならば私の車には車椅子マークのシールが貼ってあるわけでもなく、証明するものが何もないからです。

車椅子マーク

あえて証明する物と言えば車椅子に乗っているAさんそのもの。でも彼女が乗っていなければステッカーのない車は違法駐車そのものなのですから、なんとも落ちつけません。

それは以前、市役所にAさんを乗せて行ったときの経験が影響しているのかも知れません。私はAさんを脇に乗せて市役所に行き1台しか開いていなかった車椅子の駐車スペースに止め、人待ちの間、車の中でお喋りしていました。するとお年寄りが運転してきた車が前からやってきて、ジェスチャーで「退け」と言われてとっさに車を動かしてしまいました。

障害を持っていても車に乗っていれば判らない

端か見ればAさんの障害が見えるわけもなく、まして私の車には車椅子マークが張ってあるわけではないのですから、ルールを無視しているカップルに対してその車椅子のお年寄りは当然の権利とし立ち退きを主張されたのでしょうが、その日1日割り切れなさを感じました。

そんな訳で高速道路のパーキングでAさんの為に車椅子駐車場スペースに止めるのも何となく勇気がいります。

休憩の時にAさんが「身体障害者手帳」と「障害者有料道路通行料金割引証」を見せてくれました。千葉県が発行したその手帳の表は緑色のビニールで出来ていて、とっさに自分が持っている電気工事士の資格を取得したときに交付された免許証と表紙の千葉県と言う文字とマークは同じだなと思いました。違うのは障害者手帳の文字。

Aさんの身体障害者手帳Aさんの身体障害者手帳

障害者有料道路通行料金割引証

手帳の中を開けたると着物姿のAさんの顔写真と共に障害の等級が一種1級と記されていています。障害の程度によって等級がある中で彼女はもっとも重い障害を持っていることをその手帳は示しているのです。
そして「障害者有料道路通行料金割引証」はAさんの場合高速道路の料金がはんがくになるそうです。だたし、いくつかの厳しい条件があります。手帳に登録されている本人の車で、本人か本人が同乗して、介護者が運転している場合に限るのだそうです。
今日の場合は私の車ですから割引証は使えません。

手帳を見た私は、自分は障害を持った人と旅行をしているのだなと、あらためて自覚するとともに、一番心配しているのは何にも予備知識を持たぬ私達と一緒に娘を旅させる事になったご両親では無いかと一瞬思ったのですが、そんなこと考えていても始まらないからドライブ再開。

常磐道から、磐越道、東北自動車道と順調に進み、村田ジャンクションから山形自動車道へ。あいにく山形県内に入ってから雨が降り始めましたが、予定の時間より早く山形県内に入りました。 早く着いたので芋煮会を行う馬見ヶ先川には直接向かわず、芋煮で使う里芋を毎年作ってくれる友達のファームへ。納屋の中では10名ほどが集まって里芋の皮むきを始めていました。市販の里芋は薬を使って皮を剥きますが、おいしい物を食べに集まる我々は素材に拘って手作業で1つ1つ皮を剥きます。里芋は井戸端に置いてある洗濯機を使っておおかたの皮を剥いてありますが、細かい部分の皮取りはヘラを使って手作業です。手に力が入ると里芋が飛び出していくし、ぬめりで手は痒くなってくるしで、大変です。山形弁で賑やかに話している仲間達の中にAさんも車椅子に移って貰い入ってもらいました。最初はいつもと違った雰囲気に面食らっているようでしたが、すぐにうちとけけてくれて一安心。

さて皮むきが終わる頃にはすっかり雨も止み一同、馬見ヶ崎川の河原へ。この川はアニメ「思いでポロポロ」の1シーンでも出てくるのですが、何故か河原の中に水道が引かれています。それだけ芋煮会が盛んなのです。

皆は土手の上に車を止めて階段を下りてくるのですが、私たちはチョット遠回りして河原の中へ車ごと降りました。斜めになりながらなんとか会場の前へ車を付けてAさんには車椅子に移ってもらいました。

最初は集まった友達も車椅子のAさんに何となく気を使っていたようですが、美味しい芋煮とお酒が入るに従って彼女の周りにも沢山人が集まって、わいわいガヤガヤ。いつの間にか翌年6月のバーベキュー大会の約束までしていました。

楽しい時間はあっという間に過ぎてかまどの火が落ちる頃私は毎年チョットばかりユウツになります。芋煮会の終わりは、楽しかった1日の終わりであり、冬の到来を告げる物で、千葉に戻ってからは仲間達と冬の間4ヶ月ほどのお別れの意味であるからです。

日が落ち急激に気温が下がってきたので、片づけをしている間Aさんにはホスト役の板坂さんのお宅に移っていただき暖をとって貰うことにしました。河原の目の前が家なのですが、急な階段はいくら人数が大勢居ても、まして酔っぱらいの集団が車椅子を担いで登るのは危険きまわりなのでもう一度車に乗っていただき移動。私たちが当たり前に出来る事が出来ないのが障害なのでしょう。

 
フレーム表示に戻す